LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

気がつけば天上の音楽に囲まれて……The Millennium『Begin』

 世の中にはこれを知らなきゃモグリだよ、という通ぶりたい人々のための表現がある。玄人ぶることの恥ずかしさは重々承知しているつもりだが、ことソフトロックというジャンルに限って言えば、The Millenniun『Begin(1968)』を知らない奴はモグリだと言いたい。The Beach Boys『Pet Sounds(1966)』The Beatles『Sgt.Pepper's〜(1967)』に続く1968年発表の本作だが、一年毎にこのようなとんでもない歴史的名盤が複数出ていた60年代の濃さたるや……音楽のクリエイティビティにおいてこの時代のエネルギーは現代の比じゃないのだろう。

 それほどの名盤であるThe Millennium『Begin』だが、リリース当時あまりに前衛的すぎるということでセールスが伸びず埋もれてしまっていた。90年代以降CDの再発がなされてから、時代の評価が追いついたということらしい。確かに、『Begin』には時代を超越している音楽の素晴らしさと驚きがある。

 まず一聴して驚いたのはその音の良さである。僕の持っているCDがリマスター盤ということを考慮にいれても、1968年の音とは思えないほどの音の分離とサウンドの明瞭さだ。この秘密は本作の録音環境にある。The Beatlesが多重録音をしていた頃、音を重ねるにために最大のチャンネル数4になったトラックを別の空のトラックに重ねてミックスし、空きにまた別の音を加えていく……といった方法で録音できる音を多くしていたが、このオーバーダビングを重ねていく方法では音が劣化することは避けられなかったようだ。それに対して本作『Begin』では8トラックのテープレコーダーを2台繋ぎ、16チャンネル(!)のレコーディングができるという1968年当時としては破格の録音環境だった。だからこそオーバーダビングが少なくちゃんとした録音とミックスができたのだろう。

 もちろん音楽の中身自体も抜かりがなく、音数の多いアレンジと緻密なコーラスワークが光るソフトロックだ。『Pet Sounds』のような、クラシカルで青春の切なさや儚い美しさを感じるような曲調ではなく、どちらかといえばファンタジックで牧歌的な雰囲気の中にサイケな響きが混じっているような印象だ。カート・ベッチャーの面目躍如のコーラスアレンジは、声の重ね方にもいろいろな種類があるのだなと感じさせてくれるほど神秘的な響きのある独特な美しさがある。それとは対照的に楽器陣はThe Beatlesよりもスタジオミュージシャン的で個人の匂いがしない演奏だが、それだけに演奏の上手さや丁寧さが感じられる。

 一番有名な曲は日本のGREAT 3もカバーした「There is Nothing More to Say」だろう。どこまで乱高下していくの?と心配になるほどの美しく展開していくメロディがたまらない「God Only Knows」と並ぶソフトロック永遠の名曲である。