LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

楽しい!美しい!すごい!とにかく聴け!Roy Wood『Mustard(1975)』

 僕がこれまでの人生の中で一番集めたアルバムかも知れない。一回売ってもう一回買ったCDが一つ。再発リマスターされたCDが一つ。アナログにはまってから買ったレコードが一つ。現在計3枚持っている。それだけの回数聴いてきたし、誰にでも勧められる素晴らしいアルバムだと思う。今日はRoy Wood『Mustard(1975)』を紹介したい。

 Roy Woodはイギリス出身で、1965年にThe Moveというバンドでデビューしている。The  Moveは知る人ぞ知る英国のサイケ、パワーポップバンドといった感じのバンドで、後にELOを率いて大ヒットを飛ばすJeffrey Lynneも所属していた(ELOは元はと言えばロックとクラシックを融合した音楽というコンセプトを掲げたRoy WoodがJeffreyと共に作ったバンドである)。Roy Woodは70年代に自身のバンドWizzardを率いて多くのヒットソングを世に送り出してきたが、クリスマスソング「I Wish It Christmas Be Everyday」はその中でも有名である。

 Roy Woodは「目につく楽器全てをマスターする」という発想で10以上の楽器を演奏できるようになったという文字通りの天才だ。このアルバムにもその才能が現れており、なんと作詞作曲、管楽器を含む全ての楽器の演奏、アレンジ、エンジニア、プロデュースを担当しており、アルバムジャケットまで描いてしまったほどだから恐ろしい。そんなアルバムで聴かせてくれる音楽は多少つぎはぎしたようなアナログ感が少々いびつではあるが(そこがまた魅力)、混じりっけなしのメロディアスなポップロックだ。 

 アルバムはレコードが擦れる音がし、途端にSP盤のローファイな音質で女性コーラスの楽しげなビックバンドサウンドが流れるというなかなかにユーモラスなインスト①「Mustard」から始まる。続く、②「Any Old Time Will Do」は素晴らしいメロディを持った曲で、メロディメーカーとしてのRoyの才能を窺い知れるキラーチューンだ。壮大なバラード③「The Rain Came Down〜」はRoyのつくり出すオーケストレーションと雨の音が合わさった映画の一場面のような曲で美しい。④「You Sure Got It Now」は女性コーラスと軽快なサウンドが楽しめるオールディーズ風の前半部から曲が一転し、ヘヴィーでファンキーなソウルミュージックへと変貌する楽しい曲だ。歌い上げる女性の声はテープの回転数を変えたRoy自身の声だろうか。B面最初の⑤「Why Dose A Pretty GIrl~」はRoyが一人でビーチボーイズをやっているような、コーラスの重なりが壁のように分厚くなっているポップロックで、そのサウンドの爽快さゆえに細部までの偏執狂的なこだわりが恐ろしい曲だ。これまたビーチボーイズ風の教会音楽のような⑤「The Song」は前半部のコーラスの壁から、クラシカルなストリングスに繋がる後半部が見事な、胸にしみる組曲のようなバラード。軽快なリズムアレンジに切ない泣きのメロディを乗せた⑥「Look Thru’ The Eyes〜」はRoyの良さが詰まった名曲。ケルト風味のパグパイプが鳴り響くこれまた美しい多重コーラスの⑦「Interlude」を挟み、ラストの⑧「Get Down Home」はレッドツェッペリンとフィルスペクターが異種格闘技戦をしているような、ウォールオブサウンドのロックンロールでアルバムは大団円を迎える。