LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

デカダンスを踊ろう ROXY MUSIC『AVARON(1982)』

 ロキシーミュージックの『Avaron(1982)』ほどアートロックという言葉が似合うアルバムもないのではないだろうか。アルバム全体の雰囲気は統一されていて、中世ヨーロッパの荘厳で神秘的なファンタジー小説のようなジャケットから想像できるとおり、ヨーロッパ的耽美さが極まったような美しさのサウンドと、デカダンなダンディズムを感じさせるフェリーのボーカルが完全に解けあった、ロキシーミュージック最後のアルバムであり歴史的名盤だ。

 『AVARON(1982)』はもはやロックと言われて想像できる音楽ではなく、この音楽にロックンロールやブルースの要素を感じるよりかは、ロマン派のクラシックやロードオブザリングなどのファンタジー小説、今で言うとファイナルファンタジーやウィッチャーのようなゲームとコンセプト、音楽共に親和性が高いように思う。ファンタジックで究極的に美しいメロディがエフェクティブなギター、シンセサイザー 、サックスによって高らかに鳴り響き、そこにAORとしてしっかり練られたベースとドラムのリズムが絡み、最高に心地よいグルーヴを産んでいる。その天上のグルーヴに漂うのは、ブライアン・フェリーの耽美的なボーカルであり、ヤニック・エティエンヌの天女の調べのようなコーラスである。

 このアルバムを語るにはどこまでもクリアに広がっていく素晴らしい音響、ダイナミックかつ美しいミックスに触れざるを得ないだろう。それほどエポックメイキングなサウンドである。ミックスもひとつの芸術表現だと音で証明した名匠ボブ・クリアマウンテンの最良の仕事だろう。

 「MORE THAN THIS」といい、「AVARON」といい詞の世界で表現されるのは、これ以上ないというこの瞬間に身を任せて幸せを存分に感じようという刹那的な快楽主義といったもので、大きな世界観を表現しているというよりは運命の恋人同士のある夜の逢瀬を切り取ったような、絵画に近いものだ。それは詞というより詩に近い感覚かもしれない。

 このアルバムが日本のバンドBOOWYに及ぼした影響は大きく、『JUST A HERO』や布袋寅泰氷室京介のソロ作品にもその余波が感じられる。