LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

プロテスト・ソング①

 1960年代、当時のアメリカは人種差別撤廃とベトナム戦争反対を訴える声が多くなりつつあった。その背景には、キング牧師マルコムXをはじめとする黒人指導者による黒人の現状を力強く伝えた活動や、自由で平和な生き方を標榜するヒッピームーブメントの影響もあり、既存の権力体制に対するプロテストが隆盛していた。そんな激動の時代に大衆の心を掴んで絶大な人気を獲得していたのが、新進気鋭のフォークシンガーだったボブ・ディランである。彼の「戦争の親玉」「風に吹かれて」「時代は変わる」といった曲は当時のアメリカ国民の社会に対する声を代弁していると思われ、人々はこれらの曲をプロテスト・ソングとしてデモ活動で歌った。時代の流れがある一人のアーティストに曲を書かせ、その曲は歌われることで広く浸透して民衆のものになったのだ。ボブ・ディランはその後もキャリアを重ねていったが、彼のイメージの大部分はこの時代のものであり、ノーベル文学賞を与えるほどの評価を得たのはこの時代の功績だろう。アメリカには時代の流れをとらえたプロテスト・ソングがあり、それは時代を超えて今でも語り継がれる名曲として存在している。

 では、日本に真っ当なプロテスト・ソングは存在しているのか。真っ当な、というのはマイナーではなく、今でも語り継がれその時代を代表する曲であるという意味でだ。日本ではそもそも大きな社会問題に対して音楽で主張することはあったのだろうか。最もそれがあったと思われる時代はやはり、日米安保条約の是非をめぐって学生運動が盛んだった1960年後期から1970年前期にかけてだろう。この時代日本で流行った、社会的なメッセージを持ったフォーク・ソングを見てみればその答えがわかるのだろうか。(続く)