LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

感想

 遠藤ミチロウのドキュメンタリー遠藤『お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』を観た。

 冒頭、ミチロウが実家を訪ねて母を何度も呼ぶが、誰も出てこない意味深なシーンからはじまり、時系列ではなく、この年のライブ活動を追いつつ、親交のあるアーティストやライブハウスのオーナーとの会話も挟み、映画は進行していく。後半になってようやく冒頭のシーンの謎解きがあり、なんのことはなく御年88歳のミチロウ母と還暦を迎えた息子が再会するが、あまり仲の良さは感じられず、5年ぶりに再会したというのにお互いが硬い印象だ。

 それもそのはずで、ミチロウは母親から向けられる粘着質な愛がどうにも嫌でならなくて、実家に帰りたいとも全く思っていなかったというし、ミチロウ母は最大限の愛を注いだ息子が、パンクバンドを組んで週刊誌を騒がし、近所の人たちからあそこの息子さんは気が狂ったと言われたというから、なかなかに親として辛い経験を重ねていたわけである。そんな親子がひさびさに再会するきっかけになったのは、あの東日本大震災が故郷の福島で起こったからだ。

 この映画の撮影きっかけに元々は東日本大震災は入っておらず、撮影している期間中に震災が起こり、それに対するミチロウの葛藤や、自ら主宰したイベント活動がその苦悩の様子とともに、生々しくカメラに収められている。福島のこと、母のことを語る時は、理知的なおじさんというような印象だがライブではさすがのミチロウで、アコギ一本で聴衆を惹きつけている。ラストの福島のバンド編成ライブも最高で「原発はいらねぇ どこかに飛んでいけ」とまくし立てるミチロウがとても還暦だと思えず、たくましく見えた。