LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

ロックで大人になりましょう 氷室京介『Memories of Blue(1993)』

 氷室京介。名前からして氷に京というクールな二文字を冠した名前で、彼の音楽性すら予見してそうな響きがあるが、本名ではなく芸名で漫画のキャラクターから名前を付けており、BOOWY活動初期は氷室狂介でバンド名も暴威だった。名前変えてよかったね……。今日ご紹介するのはそんな彼の代表作『Memories of Blue(1993)』だ。

 このアルバム以前の3作品は海外小説をモチーフにした曲や、当時の社会情勢に着想を得たコンセプトアルバム、新しいバンドを結成するなど様々な試みをしていたが、結局良くも悪くもBOOWYの影を払拭するまでにはいかず、その音楽性はバンド時代と大きな違いはなく地続きであったように感じる。しかし、このアルバムでは一段と雰囲気が変わり、お馴染みのビートロック路線の1、6、7、9の曲であってもこれまでとは違って演奏やアレンジが洗練されておりスッキリしている。中でも1「 KISS ME」はミリオンセラーを達成したシングル最大のヒット曲で、文字通り氷室の代名詞のような曲である。アルバムを構成する曲の多くは松井五郎作詞の新基軸の本格的なAORやバラードであり、3ではサックスが楽曲の中心に使われているなど、30代を迎えた大人のロッカーとしての氷室を存分に打ち出した作品となっている。

 僕がこのアルバムを作るに至ったターニングポイントになったと睨んでいるのは、前年のベストアルバムにも収録された氷室7枚目のシングルである8「Urban Dance」だ。この曲はキャッチーと言い難いマイナーの曲調、シュールな歌詞、グルーヴ重視のズレたビートなど、おおよそシングルには向かない曲だが、ここで氷室がやりたかったことは要するに氷室流Roxy Musicだ。おそらくこの曲はRoxy Music『Avaron 』の「The Space Between」をモチーフにしており、その出来の良さに氷室は可能性を感じたのではないか。そこで、次のアルバムを氷室京介の世界観を保ちつつ『Avaron』のような翳りのあるAORを消化したアルバムに仕上げることを課題にした。こう仮定すると海外ドラマーAndy Newmarkの起用も説明がつく。

 このアルバムに至って初めて氷室京介は本格的なソロ・アーティストとしての歩みをはじめたと言えるのではないだろうか。そんな氷室会心の一作が平成の音楽ブームの流れにもうまく乗り、オリコンチャート1位を獲得、累計134万枚を売り上げる最大のヒット作となった。