LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

ポルノグラフィティ『雲をも掴む民』 曲の解説①

 戦争の正義や大義名分に疑問を感じつつも、戦場の真っ只中で誰かに銃口を向けざるを得ない一兵士のジレンマをドキュメンタリーのように表現した「敵はどこだ?」からこのアルバムは立ち上がる。戦争という重々しいテーマに対して曲はジャジービブラフォンが活躍する軽快なロックチューンとなっており、その歌詞の普遍性はまさに現在のウクライナに対するロシアの現状を表しているように思えるほどだ。

 その次の「ラスト オブ ヒーロー」はやさぐれたヒーローが自分で立ち上がろうとしない民衆に対して愚痴をこぼしているようで「これだけは言っとこう 俺はモンスターに負けたんじゃない」という一節が印象的だ。曲そのものはギターリフとドラムの絡み方等々レッドツェッペリンを下敷きにしているようで、それはこの曲のドラムを元すかんちの小畑pomp晴彦が叩いていることからもわかる。正しくボーナムをしている素晴らしいドラミングである。

 「ハート」はそのままタイトルの表す通り、傷ついた自分の心を客観的にみている自分がそれを誰かにみせて「しばらく預かってくれないか」と問いかける感傷的なバラードだ。自分の心の様子や扱い方を淡々と誰かに説明することで逆に、どうしようもなく弱り果てた自分の心を表現しており、楽器数の増減とストリングスの高音部への高まりを効果的に使ったアレンジも素晴らしく、最後に「頑張って 頑張って 弱いこの僕」と歌い上げるまで、歌詞と曲の流れは完璧で感動的だ。

 因島に実在する青影トンネルを舞台に、おそらく友達以上恋人未満の若い男女が自転車で追いかけごっこする「Aokage」は青春の甘酸っぱい一ページを垣間見ているようなノスタルジックなAORで、ソフトで涼やかなシンセとアコギの織りなすグルーヴが夏の風を感じさせる。 

 

 ツェッペリンからバラード、AORまで素晴らしい完成度で聴かせるバンドであり、プロデューサーの手腕だけではなく、バンドのポテンシャルの高さがここまでの表現を可能にしているのだろうと確信させてくれる。