LET THERE BE MUSIC

自分の好きな音楽、アーティストに対する考察。まずは自己満

MICHAEL FRANKS『THE ART OF TEA』

 今日ご紹介するのは、AOR界の重鎮で日本でも人気がある、MICHAEL FRANKSの実質的な1st『THE ART OF TEA』だ。最近になって音楽の趣味が落ち着いてきたのか、こういった耳馴染みの良い大人のロックを好んで聴くようになったのだが、その中でもこのアルバムはSTEELY DAN『AJA』、DONALD FAGEN『NIGHTFLY』と合わせて最も好きなものの一つだ。 

 なんといっても特筆すべきは、マイケルの声質とジャズとロックのクロスオーバーサウンドの相性の抜群さだ。チェットベイカーやボサノバのボーカルとも比較される、歌うというよりも呟きで言葉を紡いで文学を構築しているような、マイケルのエスプリ味あふれるボーカルも最高なのだが、そこに合わさるバックの演奏も主張しすぎることなくお互いを引き立てており、実に理想的な気持ちのいいクロスオーバーサウンドを聴かせてくれている。こういった絶妙なバランス感覚は、フュージョングループのクルセイダースをうまくまとめ上げた、プロデューサーのトミーリピューマの手腕によるものだろう。使っている楽器もギター、ピアノ、ストリングス、サックス、ベース、ドラムなどの基本的なものであり、流行りに乗っかったような音はひとつもないが、だからこそ、こういったアナログの上質さを追求したような音楽はいつまで経っても古びないだろう。

 日本でも発売当時からかなり人気があったようだ。次作『SLEEPING GYPSY』のライナーノーツはなんとあのムッシュかまやつ氏だった。それによると、「あまりにも僕の好みにフィットし過ぎているので何も書けなくなってしまった。きっと完全に入りこんでしまったからだろう……マイケル・フランクスの歌はアジがある。ヘタだという人がいるけどそいつは死ね‼︎」おお、なかなかに情熱的でいらっしゃる……かなりマイケルにやられていらっしゃったようだ。

 マイケルは当時歌が下手だと言われることもあったようだが、確かに、そう言われるのもわからないでもない。歌い上げるような歌唱もシャウトも彼の音楽にはなく、その歌の表現はどこまで行っても平坦ではあるからだ。しかし、彼の音楽にはそういった要素がそもそも必要ない。またしていないからこそマイケルの歌の個性が際立っているのだと思う。出来なくて下手というよりも、あえてのこの歌唱スタイルになっているといった方がよいだろう。